Cell Space Architects

苔庭の家

森羅万象との関係に入りともにあるために

計画地のあたりは、苔庭を長く大切に維持してきた軽井沢の古くからの別荘地です。
コナラやミズナラなどの広葉樹が枝を広げ、庭の上部で天蓋となり、木漏れ日の下では、落葉かきや緻密な雑草取りなど人の手が加わり続けることで苔は幾重にも重なり、清浄でふかふかな自然の絨毯が紡ぎ出されています。

道路や境界脇に積まれた高さ50-70センチほどの浅間石の土手は苔に覆われ、これにより敷地内に立つと、道が視野から排除され、苔庭が隣地との境界や道路を越えてつながっているように感じられます。
一方、敷地境界沿いには、モミ、イチイ等の常緑針葉樹や、ドウダンツツジ、ヤマツツジなどの落葉樹が植えられ、樹木が季節の変化に応じて視線を制御する緩衝帯になっています。

このような、植物によるデリケートな境界の生成及び消滅手法によって、苔庭は自然のなかの居間のような空間となっているのです。
植物たちが放つ芳しい香り、梢をそよぐ風による葉擦れの音、鳥のさえずりにつつまれ、
ここにいると森羅万象との一体感を得られます。

植物たちが作り出している濃密な環境に分け入って人の居場所を作るにあたり、影響を最小限とするためにフットプリントの小さなキノコのような形状の建物としました。
外観は揺らぐグレーの影となり植物の間に沈み、その中で人が自然と交わりともにあることを経験できる場となればという価値観をクライアントと共有しながら設計を進めました。

建物の具体的な形は、植物との呼応関係で決まっています。
そばにある樹木の根の張り方、枝の伸び方などを観察しつつ、既存樹木に影響を与えないように離角距離をとっていくと、六角形状の平面になりました。
樹木とのバランスをとり外から見てのボリューム感を和らげるため、床・屋根を3分割してレベル差を設けました。それによって、内部はそれぞれが独立したコーナーでありながらも、緩い曲面天井に覆われ、有機的な広がりを感じられます。
苔庭と共にある居場所になりました。

Information

  • 所在地

    長野県

  • 主要用途

    別荘

  • 主体構造・規模

    RC造、S造

  • 敷地面積

    1000.03m²

  • 工事期間

    2022年10月竣工